33億6000万円

話す大人です

2021/5/12日本初演「シンフォニア・ブエノスアイレス」(ピアソラ)バッティストーニ指揮

 

5/12東京オペラシティで初めて東京フィルの定期公演を見てきましたのでめちゃくちゃ感想を書きます 楽しかったです

生誕100周年のピアソラに釣られたのと、指揮がバッティストーニと聞いてなんとなくチケットを取ってみました。

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会場入ってすぐのところにいたバッティのぼり みんな写真撮ってた

ピアソラは好きでよく聞きますが詳しくはなく、バッティに関しても同様で、いつぞやのジルベスターでラデツキー行進曲をパッパカやりすぎて新年のカウントダウンよりだいぶ前に終わりそうになり、鬼みたいなロングトーンで何とかしたのを笑いながら見た記憶があるばかりで「テレビで見たことある人見てみたい」ぐらいのミーハーマインドです。

 

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今日のチケット

オペラシティは随分久しぶりに来ました。ネトレプコの来日ライブ以来です。

生で見たネトコは年齢体型一切関係なく死ぬほどかわいくて一目見ただけで持っていかれるものがあったので本物のスターって怖えなと思ったのをよく覚えています。

クラシックコンサートを平日夜に見に来る人間の世界なんて激狭なので知り合いに会ったりしないか心配でしたが、クラシックだけ好きな人はピアソラでは来ないかもしれませんね、誰にも会いませんでした助かった 音楽や舞台を取り巻く環境も随分変わった昨今ですが、とくに今日は席の間隔を開けるでもなく「マスクを常時着用してください」あたりの注意事項を書いたプリントをもらったり、もぎってもらうチケットの半券に名前と緊急連絡先を書かされるなどの対策がされていました。サントリーの振り替えですと言っている人が受付で何人かいたので中止になった回でもあったのかな よく今日も無事に開催されたものだと思いますが…

 

演目

ピアソラシンフォニアブエノスアイレス

プロコフィエフ「「ロメオとジュリエット」組曲より」

 

ピアソラとバッティの名前だけ見て申し込んだからプロコフィエフやるなんて知らずに来たんだよなあ 悪いなプロコフィエフ と思いながら無料で配ってたパンフレットを読みました。演目解説には英訳ページもあってあら親切、と思ったんですが読んでみたら内容全然違いました、マジかよ 少なくとも英「訳」ではない

日本語も英語も読めると倍楽しいパンフでした

さて両方初めて聴く曲でした、何にも詳しくない何にも知らない状態で聴いて何を考えるのか そもそもシンフォニーの演奏会自体10年以上ぶりとかのはずなのでA席8700円ぶん楽しめるかは五分五分と思ってましたが しかし

 

シンフォニアブエノスアイレス

破壊そのものみたいな音楽だった 破壊衝動とかじゃなくて破壊 

なんていうんですか?破壊といっても破壊の動作じゃないんですよ 人間の身体がやる行為じゃこの音楽に例えるには隙間が多すぎる もっとみちみちに詰まったものです でかい建物とか町丸ごとが一瞬で全部粉々になって地面もぼこぼこのメチャクチャになって、でも崩れ落ちないで全部粉々になったままピタっと止まってる とか 意味わかんないくらい大きな岩とか大きな爆発がそれまでどこにもなかったのに「今」目の前いっぱいにバン!と出現した いま死ぬほどデッカイものが、いまゼロから目の前に!っていう感じの曲でした…怖かった…… 一秒も落ち着いてない バイオリンの人たち見たことない動きしてたもん 一楽章即始まって、始まったその瞬間がもう全楽器が最大音量を一気に一斉に何の意思の統一もなくどかんと放出したみたいなとんでもない音でそれがずっと続く  シンバルで殴られる! 金属のかたまりを熱したりしないで力だけでペシャンコにして引き延ばすみたいなタイプの力が全員に対してずっとかかってた あのとき私含め観客全員そういうかたまりで無理やりひっつかまれて伸ばされてた、いま人間じゃなくて物にされてる!ってめちゃくちゃ思った 波こそあるけどずっと破壊がものすごい音で鳴り続けてる メロディなんて何もわかんない(何回も聞けば違うのかもしれない) でもって普通2楽章って新世界とかでもなんでもフッとおとなしく、メロウにセンチメンタルになることが多いと思ってて少し息がつけるか?と思ったのに  英語版パンフレットに「ハープやチェレスタの音色でドビュッシーの影響が…」みたいなこと書いてたからフーンと思ってたのにいざ2楽章になってみればよくそんなこと思う余裕あったな筆者くんってくらい2楽章もドギツかったです 最初確かに音量も下がってセンチメンタルになってバンドネオンとかオーボエも歌ってるんですけどどんどんガンガン鳴り出すし 鉄琴がガンガンありえないリズムで鳴ってくる ものすごかった 序盤にしたってそもそもピアソラがやわらかく、さびしく、ゆらゆらした旋律を聞かせてくれる時って勝手な印象だけどいつも「100年前に死んだ人間の致命傷になった生傷の写真」見せられてる気持ちになります ものすごい洒落にならない傷なのに、もう遠い話だからその人もういないからってちょっとマイルドにお出しされてるような そもそもバンドネオンの音自体「もうどうしようもないと思ってることを笑ってるか笑ってないのか分からないくらいの笑顔で話すときの声」の音してません?してる

バンドネオンなんですけど私の位置取りが悪くて全然見えませんでしたが演奏本当に素敵でした 上手の少し奥まったところに2人いましたね オペラシティは一階席にほぼ傾斜がないから脇とか舞台後ろのバルコニー席取ったほうがいいよ!絶対!ってネトレプコの時思ったのに忘れてました

3楽章も破壊破壊破壊 自分の中の破壊をあらわすところをどんだけうまく表現したらこんなすごい音楽できるんだろう おもしろい不協和音とかもいっぱいあってそこはさすがのピアソラですよね バッティの動きも激しくなってびょんこびょんこ跳んでました 彼以外と小柄なんですね 実際見ないと全然わからなかった

いやしかし圧倒されたのは「単純に音が死ぬほどでかかった」のもあるとは思います、耳痛くなりました あれ練習してたら難聴なりそう

同じブエノスアイレスといえど「ブエノスアイレスの四季」とはまたずいぶん味わいの違う、ものすごいエネルギーの曲でした……すっげ……

 

すっっっごいよかったです 日本初演に立ち会えて幸せです

ピアソラのこと「暗い部屋で一人で聞くのがいい」「あんまり聞いてると部屋から出られなくなるから気をつけたほうがいい」っていう人多い気がするんですけど、なんかもうほんとに、これはピアソラのあのタンゴらしい粘度のあるエネルギーだけじゃないものすごい爆発力があって、自分がすべてから押し出されていくような気もしました 私を癒してくれる音楽!とかじゃない 私も誰もこの爆音の営みとそれが表す風景には一切関係させてもらえないのだ、みたいな気がめちゃくちゃして最高でした

 

日本語パンフレットには 「当時””神聖なるクラシック””にバンドネオンを持ち込んだということで議論は殴り合いのけんかにまで発展した」みたいなことが書いてあってバカってマジでずっといるんだなって思いました(大暴言)そういうこというやつが今も昔も世の中をダメにするけどそういうやつに限ってきっとクラシックにおカネは出すからな それでクラシックはバカみたいな状態が続くんだろうな(大暴言)シンフォニーって音楽表現の「一手段」じゃないんかいという 宗教と同じでクラシック一神教だとそうなりやすいんですかね、世界の相対化ができなくなっちゃっているというのは

 

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演目ノート、ピアソラに関する英語部分 かなり面白いです 東京フィルの略TPOでいいんだ

幕間

 演奏終わりめちゃくちゃ出たり入ったりするバッティ、何?と思ったけどカーテンコールのアンコール的な奴ですね。演奏会久々過ぎて感覚死んでました

バンドネオン奏者の方は今日ここまでなので、ご挨拶代わりかバンドネオンだけでひとさし演奏してくれました。 やっぱりさびしいさびしい良い音だな~と思いましたけど、単体だとやっぱりふっと「ディズニーランドのゆうべ」みたいなチープさに転ぶ瞬間がある気もして、ほかの楽器があるっていいなと思いました

プロコフィエフ「「ロメオとジュリエット」組曲より」

一回も聞いたことないって言ったじゃん?あるね って始まった瞬間思いました

「モンタギュー家とキャピュレット家」→「少女ジュリエット」→「民衆の踊り」→「仮面」→「ティボルトの死」→「別れの前のジュリエットとロメオ」→「修道士ローレンス」→「ジュリエットの墓の前のロメオ」の順番だったようですが

一個目のメロディめちゃくちゃ知ってるわ お前かい ごめんプロコフィエフ ほかのメロディは知らなかったけどグロッケンシュピール大活躍の巻だったという記憶が強い

少女ジュリエットが最初めちゃくちゃゲームの日常パートみたいでぶりっ子感あって「おまえも「少女の無邪気さ」にそういう夢みてるタイプか……」と一瞬げんなりしましたが最終気に入りました(どこから物言ってる?)

舞踏音楽だから踊れるようでないといけないから、というのも大きいと思うんですが、さっきまでのピアソラと比べるとめちゃくちゃメロディアスで、整理がついていました 

シンフォニーの住民がシンフォニーのセオリーで作っているというか、「なにをいっているのかわかる」「人間の気持ちとか動作に紐づいている」音楽だなと思いましたね……これは物語を音楽で進行させる以上すごく重要な要素なんだろうな 「シンフォニアブエノスアイレス」は「人間の動作」とか「人間の情緒」とかそんな我々の頭の中にあるようなもんじゃなかったんですよ私の感覚では 表現されているもののフィールドが、種類がまったく違う………

ロディアスな音楽を聴いていると余計なことばかり考えてしまいますね 余計なこと考えられる時間てのは豊かさなんだろうけど…

ずっと立ち上がって演奏してるヴィオラお姉さんたちのかっこいいことったらなかった バイオリンよりもヴィオラがよっぽど好きだ と思う瞬間がある

 

バッティストーニは思いきりよく演奏を終わる瞬間両手を体側まで振り下ろして頭をちょっと下げて「15度おじぎ」みたいな姿勢をする人なんだな、チャーミング~~、という感想を抱きました げんこつ同士を合わせて奏者との握手の代わりにするのも生で見られたし

あ~おもしろかった!と思いながら帰れて意外なうれしさでした、これは好みに基づく悪口ですが「魔笛」を観た時は「旨いもん食って帰んねえと割に合わねえな」と思いながら会場を出たし、そういうことってわりにあるよね、と思ってるので……

6月の定期演奏会に伺うかはわかりませんがラフマニノフらしいですね いいですね 

帰り道で頭を回るメロディ結局「モンタギュー家とキャピュレット家」だから有名どころってすごいね